今回初めての開催となりましたが、甲乙つけがたく、大変選考は難航しました。
冗談抜きで石川、丹宗ともに死ぬほど悩みました。
しかしながら、募集をかけたその意味として、haccaノベルに新しい風をもたらしてくれる、と確信できる作品を、大賞に選出いたしました。
つきましては下記の通り、最終選考時の講評を公開いたします。
改めまして、皆様のご支援、ご応募に感謝申し上げます。
丹宗:ガンとしてファンタジーです、という作品は、haccaノベルでは初めてですよね。最近増えてきてはいますが、新しいヒロイン像として「自分がヒーロー」というのは、そこに値するものだと思っています。
石川:そう、それはいいですよね。
丹宗:現実的で努力家で、よくめげなかったね、と思います。女子のヒーローもの、面白いのでアマネちゃんが活躍するとこ見たいですね。
石川:そうですね、今後バディものとしてのシリーズ化に期待したい、というところもあります。
丹宗:主人公のアマネちゃんは自分が女の子であろうとするところが全然なくて、びっくりしたのはパラフィンオイルで火吹きをやるシーンです。これ女子がやるんだ、何のためらいもなく、と思って。あの勇ましさすごいいと思う、めっちゃ頼もしいですよね。
石川:最初と最後が繋がる構成もいいですね。全体はもちろん、季節の描かれ方も。料理の部分で季節がよくわかる、見える感じがあります。山の描写も含め、しっかりコンテストの意図を組んでくださっている。
丹宗:季節感は平和な感じと非日常の対比、という意図もありますね。
石川:それが料理のところになってるのかな。
丹宗:チアキ君ちゃんと食べるようになって元気になっていく感じがいいですね。アップルパイを美味しそうに食べているシーンは初見でも微笑ましいのですが、読み終えてその意味を考えると切なくもあります。
※曳町様には8月時点で賞金をお渡しし、10/20より加筆修正頂いた作品を連載いただいております。
石川:素晴らしいです。無駄なく隙がない。
丹宗:完成度が一番高いのはこれだと思います。結構思うところを書いてるけどそのどれにも無駄がない、作者の考えじゃなくて、ちゃんと必要なことが書かれています。
石川:端正なのにしっかり読ませて面白いです。
丹宗:帰ったらいるのいいですよね、「えっ、そこにいるの!?」みたいな。
石川:いいよね、こういうシチュエーション。結構みんな好物、みたいなところはあるんじゃないかな。
丹宗:仕事で疲れてるとやっぱ飼いたいですよね、家事してくれるイケメンとか癒し系の年下とか。最後には下着を洗われるのすら抵抗なくなってる。笑
石川:なし崩し的にね。笑 フラペチーノがモチーフとして弱かったかなというのはありますね。チョイスとして悪くはないですが。それにしても本当に他にツッコミどころがない、とてもよくできています。
丹宗:強いていえば、10年経ったらジェンダー感がややチープになってる可能性はありますが、それだけリアルということでもあります。そこを差し引いても、10年後も読めます。
石川:そうですね、その感覚です。ホントいい作品でした。
石川:雪だるまのモチーフが全編通して変わっていく、その解け方が全部ポイントになっています。スカート、車を汚すところ、タイトルにもあって、「とけたら」に対しての場面の展開が上手く書かれていて非常によかったです。
丹宗:モチーフの使い方は最終に残った作品の中で一番だと思います。ただどこかもの足りなく感じてしまうところがあって、ちょっと幼いのかなと思いました。
石川:そうですね。最初素直って書いたんですけど、すんなりいき過ぎてるところがあるかなって。
丹宗:設定が中学生だったらそのまますっきり読めたかも。高校生だともうちょっと素直じゃなかったりずるいところがあったり、逃げちゃったりしてもう少し先生を困らせる気がします。だけど先生×生徒ものでちゃんと線引きされているところがすごくいいです。先生のスタンスがいいですよね。
石川:こうあるべきもの、ですよね。逆にフィクションだから、そこは押さえておきたいです。
丹宗:安易にhaccaで先生×生徒ものはやりたくないですね。越えられるだけの何かが欲しいかな。
石川:逆にくっつくならそれなりの何か、相当な理由がないと、今はちょっと難しいと思います。
丹宗:短編小説集の最終作品でもあり、春から始まって冬で終わるときに本作がくるととても締まります。だけどところどころ気になる部分があって、仕方ないのですが橙のシャドーボックスを作っている期間が長いです。結果としてヤドリギが目立たなくなってしまっている気がします。
石川:そうですね、ホステルの名前でもあって、ホントに大ぶりなヤドリギってすごいのですが、そのイメージは作品を読んでも持てませんでした。
丹宗:晴音さんのエピソードとかもちょっと多いかな、上手いのですらすら読めてしまうけれど、構成を見たときにいろんなものが入ってきて、メインとなるべきものがぼやけてしまう。短編集の最後としては、このごちゃっと感はとてもいいのですが、単独で見たとき弱いと感じます。だけど一番はヤドリギ、そこが目立つようにしてほしい。
石川:もう1エピソード、増やさなくてもいいのか……うーん。
丹宗:ミスルトゥ・ハウスにはなぜ、元々ヤドリギがないのでしょうか。
石川:あれがあると、すごい映えると思うんだよね。
丹宗:「ここの名前の由来って何?」って聞いたときに「あれ」って指差されるような感じがほしいですね。
石川:ヤドリギってキスのエピソード(ヤドリギの下でキスをする)とかあるので、それを期待していたのですがなかった。せっかくモチーフとして持ってきてるので、もう少し膨らませてもらいたかったかな。
丹宗:ちょっともったいないですよね。逆に、そこを上手く使っていたらこれを選ばないとダメだ、となっていたかもしれないくらい、雰囲気よかったです。
石川:はい。作品の雰囲気はすごくいいです。
石川:好きな世界観です。
丹宗:雰囲気は一番haccaノベル的で、ものすごくよかったです。
石川:観覧車の番号とか。観覧車を持ち込むだけでぐっときますが、そこに番号が割り振られているのが現実にありそうでよかったです。その文字も見えるようです。
丹宗:わかります。もう作品の雰囲気だけでわくわくする、大好きです。
石川:カケルが最後まで受け身であることが残念に思います。会いに来て、ではなく会いにゆく、ラストが欲しかったです。もしくは、愛しいと感じることができないまま、ぼんやり窓を見つめる、淡い恋物語でもよかったのじゃないかと思います。
丹宗:おそらく非常に悩まれたと思うのですが、個人的にはぼかして終わってほしかったです。カケル君、会いに行ける性格ではなさそうですし、彼なら恋の輪郭を掴めていないままの喪失感で〆てもよかった気がします。しかしながら、早くhaccaノベルに六月作品をお迎えしたいです。
石川:ホントですね。
多彩な作品が集まったことを嬉しく思います。〖きゅん〗という、少し言葉で説明しにくい、けれど多くの共感を得られる感情。その感情に様々な切り口で挑んでいただき、たくさんの姿を見ることができました。心を持っていかれるもの、思い出を引き連れてくるもの、きゅんという感情自体を具現化する大胆な試み。同じ創作する者として、とても刺激を受けるコンテストとなりました。
今回は秋冬をテーマにしているため、その要素がやや弱いと感じ、選考から外れる作品もありました。レベルの高い作品が集まったという証左であると思います。
その中で選ばれた受賞作は、haccaノベル初の連載形式での発表となります。お楽しみに!
たくさんのご応募、ありがとうございました。
© 2020 hacca novel